「みなさん、ようこそおいでくださいました」
わたしは、慇懃に集まっていただいた同志を迎えた。
今日はわたしの経営する喫茶「吾眠」の新装お披露目パーティーなのだ。それに「サド連合」と「日ワイ同盟」の方々を招待したが、少々不便なところにある為、最寄りの駅までわたしが自家用車で迎えに来たのだ。店の方は昨日のうちに万全の手筈を整えてある。
わたしは集まってくれた一同を見渡して、あることに気付いた。
「ところで鹿の子さんは?」
わたしの声に一同が顔を見合わせる。
「そう言えば姿がみえないわねぇ」と女将さんことBUTAPENNさん。
「どこかで迷子になっているんじゃないのか?」とはTERUさん。
「とっくの昔にTERUさんに喰われちゃって、お腹の中なんてことは無いですよね」
わたしの問いかけにTERUさんが顔を歪める。
「オーナー、君は未だにぼくのことを誤解している」
「TERUさ……。ダーリン!素直に白状しなさい。わたしの鹿ちゃんを食べちゃったの♪」
わたしの冗談にshionさん? が妙に嬉しそうに黒い物体を取り出す。
「や、やだなぁハニー。僕が君の大事な鹿を食べるわけが無いじゃないか。オーナーの悪い冗談だよ」
この二人、どの世界に迷い込んでもパターンは同じらしい。嘆かわしい。
「どこに行っても変わらない二人ですね。本格推理の世界にはそぐわない」
「本当ね。だから日ワイはいつもコメディーになっちゃうのよ」
わたしとBUTAPENNさんは役を離れてお互いに愚痴た。この面子で本格推理の世界が成立するのかはなはだ疑問だ。
果てさて、状況から見ると今回の被害者はすでに決まったようだ。賢明な読者諸氏もすでに勘づいておられることだろう。では犯人は? 残念ながらこの面子では誰が犯人になってもおかしくない。ただ、筆者として忠告するのであれば当番制は無視した方がいいだろう。
「とっとさん、いつまで一人でブツブツ言っているんですか? そろそろ役に戻ってくださいよ。進行役がモノローグに徹していたら話が進まない」
TERUさんに促されてわたしたちは再び物語の住人へと戻ることとなった。
「とりあえず探すって言っても心当たりも無いし、困ったわね」
「ひょっとしたら、新幹線乗り過ごして名古屋まで言っちゃったんじゃない」
「豊橋ってひかりが停まらないんだよね。田舎だから」
田舎で何が悪い。わたしは少々腹立たしく思ったが、寛大な性格をしている為笑って見過ごすことにした。それよりは物語を進めなくては。
「なにかあったらお店の方へ電話くれるでしょうから、とりあえずみなさんだけでもご案内致します」
わたしはとりあえず、皆を店へと案内したのだった。ところで鹿の子さんはうちの電話番号を知っていただろうか?
店の前に車を止め、店内に入ろうとした時にわたしは異変に気付いた。
「どうしました?」
ドアノブを握ったまま固まるわたしにTERUさんが声をかけてくる。
「いや、鍵が空いているんですよ」
「いやだ、とっとさん気をつけないと物騒よ」
「どろぼうさん?」
皆の言葉を背に受けながら、わたしは首をひねった。確かに夕べ帰る時には施錠したはずだ。マスター夫妻は今、温泉旅行に行っていて留守のはずだし、この扉が空いているはずは無いのだが。
「もうすでに中で鹿の子ちゃんがかっぽん飲んでたりしてね」
shionさんの言葉にわたしは妙な胸騒ぎを覚えた。確かに彼女ならやりかねない。根っからの二頭身お笑いキャラとしてすでにこの世界で確立してしまっているのだから。すると今回もまた、かっぽんネタの事件が起こるのか?
意を決して扉を開けかけたわたしは濛々たる黒煙の奇襲を食らった。
「ゴホゴホ。なんだ? 火事?」
「そりゃたいへんだ、すぐに火を消さなきゃ」
「とっとさん、火にお鍋をかけたまま来たんじゃないの?」
あわてて店内に駆け込んだわたしたちの見た物は、部屋の中央に置かれた煉瓦製のコンロ? とそこにくし刺しにされて焙られている動物の肉だった。
「オーナー、これは危険だよ」
「そうそう、ちゃんと火は消してこないと」
「でも、豪勢ね。これって何? 豚じゃないし、牛じゃないし……、鹿?」
そう、そのコンロで火に焙られていたのは紛れもなく鹿の胴体だった。確かにコンロはわたしが用意した物だが、今日皆にご馳走しようと思ったのは別に鹿肉と言うわけではない。それならば鹿の子さんを招待することはなかったであろう。
「あら、頭は切り落としてあるのね?」
反対側にまわったBUTAPENNさんがコンロの中を覗き込むようにしてそう言う。
「この毛皮、不自然じゃないか?」
TERUさんの言葉に皆が覗き込む。
「これ、合成繊維よ」
「まさかこれ……、鹿の子ちゃん?」
皆の視線がわたしに集まった。
「ち、違う! わたしじゃない。確かにバーベキューをしようとは思ったけれど、それはちゃんとした牛の骨つきリブで鹿肉じゃない!」
「じゃあ、誰がこんなことをしたんだろうな?」
そう言ってわたしの方をみるTERUさんの目が猜疑心に満ちている。
「僕らはさっき駅でオーナーに拾われて此処に来たばかりだ。こんなことが出来る人物はただ一人」
TERUさんがずいっと一歩わたしの方へ踏み出す。
これはえらいことになった。語り手であるわたしが犯人等と言うのはアンフェアの見本だ。それにこれだけじゃ本格推理も糞もあったもんじゃない。作者は何を考えている。って作者はわたし自身か……。わたしは心の中で叫んだ。誰かこの窮地を救ってくれ! このままここからリレー小説にしよう。
しかし、まだ人目に触れることの無い書きかけの原稿では、そんなわたしの言葉に答えてくれる物は一人もいなかった。
「東京PD」
いきなりTERUさんが手帳のような物を取り出すとそう叫んだ。でもそれはshionさんの台詞のはずだ。しかし当のshionさんはいきなりカウンターでかっぽんカフェラテを飲んでいた。
「shionさん、ちょっと何やっているんですか? 台詞取られていますよ。それにどこからそんな物」
わたしの叫びにshionさんは目を丸くする。
「えっ? カウンターの上にかっぽんがあったから。牛乳は新鮮なのが冷蔵庫に入っていたし」
「なんでかっぽんがそんなところにあるんです?」
「えっと……、夕べ忘れて……。そう鹿の子ちゃんが忘れて言ったんじゃァないかな?」
「ハニー、鹿の子さんはそこでいい具合に焼けて香ばしい匂いをさせているよ」
「あ、だから鹿の子ちゃんの遺品です〜」
皆が痛ましげにこんがり焼けた鹿の子さんのお尻に目をやった。それを見てわたしはなにかが引っ掛かった。
「さて、とっとさん、なぜこんなことをしたのか白状してもらいましょうか?」
思い出したようにTERUさんがわたしに詰め寄る。
わたしはあわてて彼に聞いた。
「ちょっと待ってください。これは「動機モノ」なのんですか?」
「違うんのか?」
「それはまずいでしょう。第6話でBUTAPENNさんがそれをやっている」
「じゃあ、これはなんなだ?」
「それを考えるのが名探偵でしょ?」
わたしの言葉にTERUさんが頭を抱えた。彼としては作者に聞いてくれとでも言いたいところだろうが、その作者が目の前でしらを切っているのだから。
「なんで頭が落してあるのかしら?」
その時BUTAPENNさんが呟いた。そうだ、わたしが引っ掛かったのはそれだ。普通頭を落とすのは……。
「被害者の身元をわからなくする為?」
わたしの言葉にBUTAPENNさんが頷く。
「でも、こうあからさまな格好させたままだとすぐにバレるじゃないですか」
「だからこれは鹿の子ちゃんに見せかけるためにそうしたとは考えられない?」
「ハイハイ! shionわかりまーす!」
その時shionさんがいきなり手をあげた。
「実はドッキリテレビで、その辺の影から鹿の子ちゃんがプラカード持って飛び出してくるんでーす」
『却下!』
皆が声を揃える。
「で、話を戻すけど、鹿の子ちゃんに見せかけることによって捜査を攪乱するのが目的と言うのが一般的だと思うのよ」
「なるほど、とっとさん、それで捜査を混乱させてどうするつもりだったんです」
どうもTERUさんはわたし犯人説から離れられないらしい。
「わたしに聞かれても困ります。でもこれまでの展開からTERUさんの役所はわかりましたよ」
そう笑うわたしに彼も顔をしかめる。
「わかってます。第四話でペッポコ刑事役を押しつけたこと怨んでいるんでしょ?」
「いいえ、ヘッポコ刑事は本望ですし、犯人役も役得の方が多かったし、感謝こそすれ、恨むなんてことはしませんよ。TERUさんにヘッポコ刑事にされたことも、shionさんに被害者として剥かれたことも、ほんのこれっぽっちも怨んでなんかいません」
わたしの言葉に彼の顏が引きつるのがみえた。ほんと、別に怨んじゃいないさ。ただサド連合の盟主としてはやっぱりキャラクターをいじめなきゃいかんのだよ。
「で、お二人さん、さっきから脱線してばかりでちっとも話が進まないんだけど」
BUTAPENNさんのご指摘に従い、我々はまた物語世界に戻る。
「もし、BUTAPENNさんの言う通り、そのこんがり焼けたお尻が鹿の子さんのものではないとすると、一体誰の物になるんでしょうね?」
「うん、此処にはすでに鹿の子さん意外の全員が揃っている。まさか第6の人物が登場するなんてことは……」
我々は頭を悩ませた。本来なら警察に通報し、科学捜査によって被害者の身元を確かめるべきなのだが、そんなことをしていると頁がいくらあっても足りない。これはなんとしても二時間枠に納めなければいけないのだ。ちなみに二時間枠とTVのようなことを言っていながら、頁などと本のようなことを言っている矛盾についての追求は、お受けしかねる。
「むご、ふご……ふご……うがー」
不意に頭上から響く奇怪な声に我等一同は天井を見上げる。ぐるりと見渡したその先には……。あった。
いつのまにか天井付近の壁に楯のような板に据えつけられた鹿の首。
「俗に言うトロフィーと言うやつですね」
「なにか言っている見たいね」
わたしたちは脚立を壁に立てかけるとトロフィーに手をかけた。被り物のそれを剥ぐと、中から猿ぐつわをカマされたshionさんが現れた。
「ひどいじゃない! こんな処に飾りつけて。猿ぐつわはめられたおかげでここまで一言も台詞なしよ!」
猿ぐつわを外された途端、彼女はそう叫んだ。
「しかたないじゃないですか。これまでの死体役はみんな勝手に喋り出したり動いたり。とにかくひどいありさまだったんですから」
自分のことを棚に上げてと言うなかれ。今回は死体に喋ってもらっては全てが台無しになるストーリーなのだからこのくらいは勘弁してもらわなければ。決して個人的な恨みからのそうしたのではない。あくまでもストーリーのためなのだ。
しかし、此処にきて全ては台無しになってしまった。仕方がない、探偵が考え込んで宙を見上げた時に、それを発見し、調査したところ中からshionさんの生首がでてきたと言うことにしよう。
「そんなことでいいの?」
「この際、しかたないじゃないですか。それとも他になにかいい案があるとでも?」
BUTAPENNさんの問いにそう答えるわたし。せっかくいろいろ考えていたのに全てが台無しになって途方に暮れているのはこっちなのだ。
「ハイハイ! shionさんはそのまま放って置いてみんなでパーティーをするのはどうですか?」
もう一人のshionさんがそう言う。いや……。ここまで来ればこのshionさんの正体も割れている。わたしは溜息を禁じ得ない。この後どうストーリーを展開しろと言うのだ。
「鹿の子ちゃん! ひどいじゃない。ちゃんとわたしのところにも食べ物運んでよ!」
壁のshionさんがそう叫んでいるが、そういう問題か? いや、それ以前にまだネタ晴らししていないキャラの名前を出すな!
ゴホン。
とにかく、探偵役が偶然にも壁のトロフィーを発見し、そこからshionさんの生首が現れた。とにかくそこから話を繋げよう。
「ところで誰が探偵役なの?」
「TERUさんはヘッポコ刑事、shionさんは死体、鹿の子さんは行方不明(一応)、そしてわたしは容疑者の一人。となれば残るは?」
全員の視線がBUTAPENNさんに集まる。
「わたし、探偵役が多いわね。出張女将の事件簿シリーズ?」
おお、これまでの日ワイになかったシリーズものの登場か?
まあ、それはさておきそう言うことでお願いしましょう。
「そうなるとここで問題となるのは、そのこんがり焼けたお尻が実はshionさんだったとすると、此処にいるshionさんは一体誰なのかと言うことね」
そう言って妖艶に微笑む女将。その表情を見て作者は思った。なにか忘れていないか? しかし、思い出せない。断じて忘れたふりをしているのではなく、思い出せないのだ。くどいようだが決してそれを入れる場所がなかったので、強制的に忘れたふりをしているわけではない。
その時突然にBUTAPENNさんが手荷物の中から洗面器を取り出す。
「それじゃあ、まとまったところでちょっとお風呂をいただいてくるわね」
入れなければと思いつつも、入れる余地のなかったお色気シーン。せっかく忘れていたのにこの人は……。
「なんで、ここで唐突にお風呂なんですか?」
「やぁねぇ、視聴者サービスに決まっているじゃない。大抵ちょい役かヒロインの入浴シーンがあるものよ」
「ここは喫茶店であって、温泉旅館じゃありません。作者権限で却下します」
いくら視聴率をとる為とは言え、脈絡がなさすぎるとは思わないのか? それほどまでに女性読者の人気を得たいのか作者は……。って何故に入浴シーンで女性読者の人気を得られるのかは謎だ。
さて、話をもとに戻そう。
女将の妖艶な笑みに偽物shionは蛇に睨まれた蛙。こめかみに冷汗を浮かべながら硬直している。
「いい加減に正体を現しなさい、鹿の子ちゃん。五人の登場人物しかいないんだからバレバレよ」
いや、女将さん。いくらなんでもその推理は……。
「あらそう? じゃあ、姿を消している来客の一人が犯人の最有力候補ってことでどう?」
まあ、好きにしてください。
とりあえず我々は偽shionと思われる人物を取り囲んだ。
「とっとさん、その記述もうやめません? どうせネタは上がっているんだし」
「そういう問題じゃないでしょう。一応ストーリーは完結させないと」
「気持ちはわかるんだけどねぇ」
一斉に飛び掛かる我々の隙間を偽shionだった物がすり抜ける。我々の手にはshionさんの皮? だけが残った。
「正体見たり!」
shionさんの皮の剥がれたそこには、大きな角をもったトナカイが現れた。どこにそんな物隠していたんだ?
「あっ! ばれちゃった。shionさんの皮を被ったトナカイでーす」
次の瞬間、三本のハリセンが彼女を襲う。
「あっ!」
トナカイの悲鳴が上がる。ハリセンの勢いで彼女のかぶっていたトナカイの着ぐるみがずり落ちる。その下からは……。
「shionさんの皮を被ったトナカイの皮を被った鹿の鹿の子ちゃんでーす」
ああ、ややこしい。
マトリョーシカ鹿の子は健在だった。我等の手がかかるとスルリスルリと化けの皮を一枚ずつ剥がし逃げていく。
「トカゲのような人ですね」
いい加減疲れ果てて息も絶え絶えにわたしが言った。
「でも、そろそろ年貢の納め時よ。それ以上脱ぐ物があるのかしら」
見れば鹿の子さんは薄絹一枚で店の隅に追いやられていた。BUTAPENNさんの目が光る。
「どうやら、今回のアダルティー役はわたしでも、shionさんでもなく、鹿の子ちゃんだったようね」
すでにshionさんがこんがりお尻を露出していることはすでに彼女の記憶からdeleteされているようだ。
「お前たち! やっておしまい!」
BUTAPENNさん、キャラが変わってきているぞ。そう思いながらも最後の一枚を剥ぐ為に……。いや、鹿の子さんを捕縛する為にわたしとTERUさんは飛び掛かった。猟犬のように涎をタラシながら。
「イヤ〜ン」
科を作って逃れ問うとする鹿の子さんの上にのしかかるわたしたち二人。二人の体重が彼女にのしかかった瞬間、ツルンとえんどう豆が莢から飛び出すようになにかが宙を飛んで行った。
「ナイスキャッチですー」
BUTAPENNさんの胸に抱かれるように鹿の姿をした二頭身鹿の子さんがいた。
一時間後、鹿の子さんは煉瓦製のコンロに渡された棒に四肢を縛りつけられて我々の尋問を受けることとなった。
「ホントに二頭身だったんですね」
「まさか、最後のあの状態からこれが出てくるとは……」
残念そうに呟く我々二人に容疑者は目を潤ませる。
「お願いです。食べないでください。全部喋りますから〜」
「鹿の子ちゃんはああいっているけど、どうする?」
BUTAPENNさんの問いかけにわたしとTERUさんは顔を見合わせる。
「こ、怖いです。二人とも目がギラついています〜」
う〜ん、これぞサド連合の醍醐味。い、いや、そうではなく。
「とりあえず話を聞いてからどうするかは決めましょう。さっき店内を調べたところとんでもない事実が判明したんです」
「とんでもない事実?」
「ですからそれについても言及したの地、彼女をどうするか皆で決めましょう」
わたしの提案にBUTAPENNさんが頷く。
「で、鹿の子ちゃん、どうしてこんなことしたの?」
「し、shionさんがいけないんですぅ〜」
彼女の話はこうだった。鹿の子さんはあらかじめ今日のパーティー用にかっぽんカフェラテを用意しようと夜中に店に忍び込んだ。どうやらそれが開店祝いのつもりだったらしい。その時爆弾を仕掛けに来たshionさんと鉢合わせした。そこでshionさんは自分がなにもプレゼントを用意していないことに気付いたらしい。ここでいつものように爆弾をプレゼントとすればいいのに(いや、本当は決してよくないのだが)何を思ったか鹿の子さんでトロフィーを作ることを思いついてしまった。しかし、実際には返り討ちにあってしまい、自分がトロフィーになってしまったと言うことだ。
「でも、それなら正当防衛だからトロフィーなんか作らずにすぐに警察に自首すれば……」
TERUさんの言葉にわたしが口をはさむ。
「出来なかったんですね。もう一つの罪を隠す為に」
鹿の子さんは涙目で首を何度も縦に振る。
「わたしがさっき見つけたとんでもない事実。それは今日の為の食材がごっそりなくなっているんです」
「それって……」
BUTAPENNさんの目が光る。
「鹿の子ちゃん、それはどこにいっちゃったのかなぁ」
皆の目がぷっくり膨らんだ彼女のお腹に注がれる。
「おなかがすいたんでみんな食べちゃいました。てへ」
つまりはそう言うことだ。shionさんがこんがり焼かれていたのも、なくなった食材をカバーする為。皆がそれを鹿の子さんと思って食べてしまえば証拠はなくなると彼女は考えた。その上でshionさんが失踪すれば、全ての容疑が彼女に降りかかるという寸法だったらしい。そのために首があってはいけなかったのだ。
「でも、それならshionさんの首をトロフィーなんかにせずにどこかに埋めるとかしないと……」
「だってそれじゃあ、本当にshionさん、一言も台詞なくなっちゃうじゃないですか。それにいろいろ食べたら喉乾いちゃって、かっぽんカフェラテも全部飲んじゃいました。だからそれがわたしからのプレゼントです。てへ」
まあ、作者にも温情があるということだね。しかし本当にそれでいいのか?
若干? の疑問は残る物の、此処にこの猟奇殺人事件の謎はすべて解けたのだった。
「さて、それじゃあ、今日のパーティーは鹿肉のバーベキューといきましょうか?」
「そうね、お腹もすいたことだし」
「出来れば生で食したいところだけれど」
どれが誰の台詞なのやら。
「ひどいですぅ。全部話したんだから食べちゃいやです〜」
鹿の子の悲痛な叫びを皆が無視し、コンロに火をつける。
「こらー! いい加減にわたしをここから下ろせ! わたしにも食べさせろ!」
この日、喫茶「吾眠」の店内は鹿の子の悲鳴とshionの怒声、それに三人の笑い声がいつまでも響いていた。
終幕。