日々楽々ワイド劇場―――動機なき殺人


 作者:BUTAPENNさん



 TERUの死体はトレードマークの黒い革のコートを着て、自分のベッドの上で背に凭れ、 まるで入り口の方を睨みつけているような格好だった。しかしその瞳には明らかに生命の灯はなかった。
「なんてことだ。みんなで鍋を囲もうと4人でTERUさんの家を訪ねてみれば」
 とっとがぼう然とつぶやく。
「鍵はかかっていない。部屋の床にはブリーフやシャツや書類が散乱。そしてベッド には死体。ちなみに今日のメニューはカレー鍋。鶏がらスープとカレールウのだし で、レタスやカリフラワーなどの洋風具材を煮込み、すりおろしにんにく入りのポン 酢で食べるという女将さん自慢の鍋だったのに」
「とっとさん、流れるように見事な状況説明です」
 鹿の子が感嘆して拍手する。
「ふだんは、奥さんへのお世辞も言えないくらい、無口なんだけどね」
「んまあ。死体役が輪番制だというのは、本当だったのね」
 BUTAPENNが、女将らしく腕組みをしながら、ため息をついた。
「これまで鹿の子さん、私、TERUさんと来て、次はとっとさんとshionさんのどちら かしら」
「やめてくださいよ、縁起でもない。……あ、shionさん?」
「ダーリン」
 shionの目からぶおっと涙があふれた。
「どうしてこんなことに……。私を遺して逝くなんて。ダーリン!」
 死体にとりすがるshion。BUTAPENNは、感極まって天を仰いだ。
「そうよ。この日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)に今まで足りなかったのは、こ のお涙ちょうだいのシーンだわ。私が死体になったときは、だれも泣いてくれなかっ たものね」
「あ、わたしのときもみんな楽しそうでしたよ」
 鹿の子がぱたぱたと、ひずめのついた手を振る。
「鹿の子ちゃん。そのピンクの着ぐるみは何? それにいつの間に二頭身になったの ?」
「かわいいでしょ。わたし今度サン○オからデビューしたんですよ。脱いでも脱いで も着ぐるみを着ているマトリョーシカ鹿の子」
「それはおめでとう。しっかりね」
「はい。私も女将さんのような、全裸シーンもOKの女優さんを目指してがんばりま す」
「それじゃあ、死体の検案を始めましょう。とっとさん、お願い」
 とっとはうなずくと、ようやく泣き止んだshionを脇にどかせて、TERUの黒いコー トのボタンをはずした。
 まず、裸の胸に小ぶりのフルーツナイフが深々と柄まで差し込まれているのが見え る。
 さらにボタンをすべてはずすと。
 コートの下に、TERUは何も着ていなかった。いや、正確にいえばトランクスだけは はいていたが、そのトランクスも半ばずり下ろされ、中があらわになっている。
「あら」BUTAPENNは舌なめずりをした。
「きゃ」鹿の子は両手のひずめで目をおおった。
「……」とっとは、ちょっと勝ち誇ったように薄笑いをうかべた。
 shionは見飽きているのか、特に感想はないようだ。
「黒コートの下は全裸……。これってまるで」
「ちょっと待てい!」
 叫び声をあげて、死体がむくりと起き上がった。あわてて下着をたくし上げながら、
「これじゃまるで、ぼくは夜道の変質者じゃないか」
「似合ってるわよぅ」BUTAPENNは、ホホと哄笑する。
「さては女将、前回ぼくに全裸死体にされたことを恨んでますね」
「いいえ全然。私くらいの熟女になると、松坂慶子ばりのヌード写真集だってへっ ちゃらよ。それに日ワイ第5話が発表されてから、うちのサイトにアクセスが増えた ような気がするの。きっと男性ファンが増えたのね。TERUさんも、きっと女性ファンが」
「来ませんって。こんな変態のイメージがついちゃ」
「だいじょうぶよ。ただのお話だってみんなわかって読んでるんだから」
「一度強烈なインパクトで脳にインプットされた情報は、間違いとわかってもなかな か消えないんですよ」
「そういえば、「クイズ日本人の質問」って、正解よりも文珍博士の誤答のほうをい つまでも覚えてるわぁ」
 鹿の子が同意してうなずく。
「それより早く、推理を進めましょうよ」
 とっとが一同を促したので、TERUはしぶしぶ死体に戻った。
 BUTAPENNが、当然のように探偵役を引き受けた。
「まずは、犯人像ね。一見、物取りのようだけど、そう見せかけた顔見知りの犯行と いうことも考えられるわね。だって、犯人は真正面からナイフを突き立てている。か なりの心を許した相手でないと、こうはいかない」
「犯人は、付き合っていた女性のひとりで、TERUさんの女遊びに腹をたててカッと なって、近くにあったナイフで刺してしまったのでは?」
「それは変ね」
「変って?」
「動機よ」
「動機?」
「鹿の子ちゃん。動悸・息切れってボケはなしよ」
 鹿の子はshionに釘をさされて、取り出そうとしていた「救心」をあわてて引っ込 めた。
「TERUさんの女遊びは今に始まったことじゃないわ。日本の首相が小泉さんだと知ら なくても、女好きのTERUを知らない人はいないわ」
 TERUは死体役に徹しながら、こめかみをひくひくとひきつらす。
「女性はみんなそのことを知ってつきあってるんだから、今さら嫉妬が動機というの も考えにくいのよね」
「なるほど」
「そうなると、親しい人物といえば」
 BUTAPENNはとっと、鹿の子、shionを順番に見渡した。
「わたしじゃありませんよ」とっとが憮然として言った。「TERUさんはわたしの師匠 なんだから、殺す理由はありません」
「TERUさんに献上するエロ小説に行き詰ってるとか」
「そうなんですよね……って何を言わせるんですか。違いますよ」
「じゃあ」
「今回は私が犯人なの?」
 鹿の子は目を輝かせた。「一度犯人役をやってみたかったんですぅ」
「鹿の子ちゃんはダメ。せっかくアイドルデビューしたばかりなのに。日ワイの犯人 役の女優は、トウのたった元アイドルと相場が決まってるのよ」
「ちぇーっ」
「それじゃ、残ったのはshionちゃん。犯人はあなたね」
「ふふふ。よくわかったわね」
 shionがあっさりと白状したのに、一同ずっこける。
「女将さん、じゃあ犯人役の私って、トウの立ったアイドルということなの?」
「女優は細かいことを気にしちゃだめ」
「でも、これで犯人もわかったし、事件は解決ですか?」
 とっとが肩透かしを食らったような顔をする。
「甘いわね。まだまだこれからよ。このミステリーは「フーダニット(犯人探し)」 ではなくて、動機さがしが主眼なの。いわば、動機なき殺人事件」
「そうよ」
 shionは不敵に笑う。
「私は長年ダーリンの愛人をやってきたんだから、少々の浮気くらいでは全然殺意な んて起きなくてよ。私には動機なんかないの。さあ、私の犯行をどう説明するの?」
「うーむ」
 なぜ犯人がこれほど威張っているのかを深く追求せずに、一同考え込む。
「わかったわ。ヒントは床に散らばったブリーフよ」
 BUTAPENNがポンと、拳で掌を打った。
「え?」
「TERUさんは、ブリーフ愛用派だったのよ。なのに、今はいているのはトランクス。 しかも、相当派手ね」
 鹿の子がおそるおそる、トランクスの柄を調べる。
「あっ。これってサン○オのクリスマス限定「トナカイのレッドノーズくん」トラン クスです」
「TERUさんの趣味から言って、こういうものは履かないわ。犯人が無理矢理履かせた としか思えない」
「とすると、クリスマスにTERUさんにこのトランクスをプレゼントした人物。こうい う趣味を持っている人物は」
 全員の視線がshionに集中すると、彼女は、わっと泣き出した。
「だって、せっかくのプレゼントをダーリンは恥ずかしがって、一回も履いてくれな いんだもの」
「まさか、トランクスを履く履かないで口論になって、かっとなって殺害したという ことですか?」
「このトランクスを履いて、黒コートを着たかっこいいダーリンが見たかったの」
 変態なのはshionさんだ、とその場にいた誰もが思った。
   *   *   *
 事件のすべてが解決したあと、彼らは桜吹雪の舞う舗道を並んで歩いていた。
「shionさんも、本当は心の奥底ではTERUさんを独占したかったんじゃないでしょう か」
 とっとのことばに、せつないストリングス系の主題歌「愛は陽炎のように」がかぶ さる。
「その気持ちをトランクスに託した。思えば悲しい女心が招いた悲劇なのですね」
「とっとさん、今のセリフばっちり決まったわ」
 BUTAPENNが、親指を上に立てる。「これで次回の主役はとっとさんの大抜擢に決ま りね」
「ありがとうございます、監督。……じゃなくて女将さん」
「ねえねえ、鹿の子はどうだった?」
「鹿の子ちゃんもいい味出してたわよ。探偵の美人助手役になれるかもね」
「わーい」
 それにしても、この日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)。視聴者はこの5人以外 にいるのか。
 あえて誰もつっこむ者はいないのであった。



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今回の壁紙は、美人女将探偵をイメージした素材を、素材サイト様からお借りしました♪
笑ってしまい、涙が出ました。笑いをとる文章を書くのは、難しいものです。
で、私の2頭身キャラですが、どうでせう?サン*オさま(笑)。 BUTAPENNさんが管理人をされているテキストサイト様へはこちらから♪  ABOUNDING GRACE


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