日々楽々ワイド劇場―――点とせんだみつお。


 作者:TERUさん

 
プロローグ。


「TERUさん」
 と、鹿の子は、ページの上を見上げながら言った。
「この面妖なタイトルのことで、お聞きしたいことがあるのですが」
「はあ」
 TERUは、タメ息をついた。
「お願いだから、それ以上、言わないでください。松本清張の時刻表トリックの中でも、最高傑作との呼び声が高い『点と線』をモジろうとして、いろいろ考え抜いた挙げ句にも関わらず、こんなくだらなくも意味不明であり、アンド、本文とはなんの関係もない無意味なタイトルしか浮かばなかったなんて、言わないでください」
「えっと……」
 鹿の子は、ポリポリと頭を掻いた。
「つまり、そーいうことなわけなんですね」
「そーいうことなわけなんです」
「そう聞くと、本文のほうもガックリと脱力感満点の期待がもてあまし気味ですね」
「いやはや、冒頭からナイスなカンバセーションの応酬ですな」
「そうです…… か?」
「そうなのです。では、本文に行ってみましょう」
「はあ」
 鹿の子はタメ息をついた。
 TERUさん、ぜったい、日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)の存在理由を勘違いしてるわ。





「というわけで」
 いきなり、とっとが言った。
「やはり今回は、鉄道系時刻表ミステリーに挑戦していただきたいと切望するわけなのですよ」
「いや、いきなりそう言われましてもね」
 TERUは、頭を掻いた。
「松本清張大先生をはじめとするミステリー作家の大家が、さんざんやりつくしておいでになって、新鮮味という点では、密室殺人と同じくらいに干からびた、チープなテーマですよそれは」
「そこを、みずみずしい感性で、新たな時刻表ミステリーを生み出すのが、TERUさんというものでしょう」
「いやあ、こればかりは、ミッションインポッシブルですね」
「達成不可能と、そうおっしゃる?」
「おっしゃります」
「ははは。まあ、そうおっしゃらず。もし、もしもですよ、時刻表トリックを考えた犯人がいたら、TERUさん、その灰色の脳細胞でアリバイを崩す自信がありますか?」
「うーん。まあ、犯人がいればね。なんとかなると思いますが」
「いいでしょう」
 とっとは、ニヤリと笑った。
「では、三日待っていただきたい」
「三日?」
「ふふふ。そうです。三日後をお楽しみに」
 とっとは、不敵な笑みを浮かべて、TERUの元を去っていった。

 で、三日後。

「どういうことかしら」
 shionは、BUTAPENNの自宅に向かいながら首をかしげた。
「とっとさんが、急に女将さんの家に集まってくれなんて」
「うーむ」
 TERUは、shionのとなりを歩きながら唸った。
「どうも、いやな予感がするんだよな」
「いやな予感?」
「ああ、じつは三日前――」
 TERUは、三日前のとっととの会話をshionに語って聞かせた。
「へえ。こんどは時刻表トリックなのね。でも、それと女将さんと、どういう関係があるのかしらね」
「それは、まだなんとも言えないね」
 二人は、BUTAPENNの家に到着した。
 そのとき。
「キャーッ!」
 鹿の子が、BUTAPENNの家から飛び出してきた。
「あ、TERUさん、shionさん! た、た、た、た、大変なんです!」
「どうしたんですか、鹿の子さん!」
 鹿の子のあわてぶりに、TERUは驚きながら聞き返した。
「お、女将さんが、大変なんです! もう大変で、ビックリ仰天なんです!」
「だから、どうしたんですか?」
「どうもこーも、どーしましょう?」
「落ち着いてくださいよ、鹿の子さん」
「はい」
 鹿の子は、背負っていたデイバックからレジャーシートを出して地面にひくと、そこに座り込んで、やはりデイバックからポットとカップを出して、お茶を飲みはじめた。
「ふー。やっぱりお茶はレディグレイがおいしいわね」
「あのね」
 と、shion。
「鹿の子ちゃん、なにやってるわけ?」
「え? 落ち着いてるんですけど」
「落ち着きすぎでしょ!」
「えーっ、落ち着けって言ったり、落ち着くなって言ったり、わたしどうしたらいいんですか?」
「とにかく」
 と、TERU。
「落ち着いたところで聞き直しますが、女将さんがどうしたんですか?」
「それがですね」
 鹿の子は、すっかり落ち着いた声で応えた。
「女将さんたら、うっかり死んでるみたいなんですよぉ」
「えーっ!」
 TERUとshionは、わざとらしく声を上げた。





 BUTAPENNは、ベッドにうつ伏せになってこと切れていた。
「なんだいったい」
 TERUは、思わずコートを脱いだ。BUTAPENNの寝室は、暖房がガンガン効いて暑いくらいだったのだ。
「女将さん、暖房を入れたまま殺されたのね」
 shionはそう言って、部屋の暖房を切った。
「それにしても」
 TERUは、BUTAPENNの死体を見ながら感心した声を出した。
「さすが女将さんだな。これでこそ、日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)の真骨頂。鹿の子さんとは年季が違う」
 BUTAPENNは、なんと全裸で死んでいたのだった。
「ふーんだ。どうせわたしはお子さまですよ」
 鹿の子がスネた。
「ちょっとダーリン」
 shionが、TERUを睨んだ。
「どーでもいいけど、さっきからどこ見てんのよ。いやらしいわね」
「そう言われても……」
 TERUの視線は、BUTAPENNのヒップに集中していた。
「えへへ」
 と、鹿の子。
「女将さんって、肌スベスベなんですね。触っちゃお」
「こらこらこら」
 と、TERU。
「遺体に触っちゃダメでしょ。でも、死因を確認せねばなるまいな。うーむ。致し方ない。全国十一万オーバーの日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)の視聴者を代表して、ぼくが女将さんの死因を確認しよう。いやはや、辛い役割だなあ」
 いそいそとBUTAPENNの死体に近づこうとするTERUの腕を、shionがつかんだ。
「ダーリン」
「ん? なにかな?」
「あんたこそ、じっとしてなさい。わたしが調べるわ」
「えーっ。そんなあ」
 TERUは、露骨に残念そうな顔をした。
「ふふふ」
 と、shion。
「あとで、じーっくり話し合いましょうねダーリン」
「うっ。いや、いいです。ハニーが調べてください。ぜひ」
「最初から、大人しくしてればいいのよ、まったく」
 shionは、BUTAPENNの遺体を調べた。
「どうだいハニー?」
「ええ。どうやら首を絞められて殺されたみたい」
 BUTAPENNの首には、締められた青いあざができていた。
「それにしても見事だわ女将さん。これほど日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)にふさわしい死体はないわね。惜しげもなく裸体をさらすなんて、女将さんの心意気には感服するわ」
「おほほ。このくらい当然でしょ」
 BUTAPENNの死体がむくっと起き上がった。
「わーっ!」
 shionが叫んだ。
「だ、ダメですよ起き上がっちゃ! 胸が見えちゃうじゃないですか!」
 そういう問題以前に、死体が起き上がってはいけないのであった。
「あら。いいじゃないべつに。減るもんじゃなし」
「ダメだったら」
 shionは、ちらっとTERUをふり返った。
 TERUは、どこから取り出したのか、双眼鏡でBUTAPENNを見ていた。鹿の子は、タブレットをパソコンにつなげてスケッチをしていた。
「うーむ」
 と、TERU。
「女将さん、ヒップだけでなく、バストもナイスだな。でも、手が邪魔だなあ。あの手をどかしてもらえれば、大事なところも見れそうなんだが」
「わたしお絵描きして、みなさんにこのデインジャラスな情事の模様をお伝えしなきゃ」
 と、鹿の子。
「あんたたち、なにやってんのよ!」
 shionは、TERUの双眼鏡を取り上げて、鹿の子のパソコンのスイッチを切った。
「あ〜あ。いいとこだったのに」
 TERUと鹿の子は同時に言った。
「ま、それはそうとね」
 BUTAPENNは、シーツで身体をくるむと、乱れた髪を直しながら言った。
「わたしもこの歳で、よくやってると思うのよ。大学に行こうかっていうでっかい息子がいるにも関わらず、ベッドの上で全裸で殺されちゃったりなんかしてね。これもひとえに、日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)の視聴率が上がることを祈ってのことなのよ。ええ、わたしの、この魅力満点の身体で、日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)の視聴率が少しでも上がるなら、いえ、どーんと視聴率大幅アップは間違いないんだけど。なんていうのかしらねえ、こういうのも、大人のメルヘンっていうのかしら」
「いいません」
 と、shion。
「あら、そう? じゃあ大人のファンタジーかしらん?」
「あのね女将さん。死体がべらべらしゃべってると、ただのホラーよ」
「ホラー?」
 BUTAPENNは、眉をひそめた。
「shionちゃん。なんてこと言うの。あなた日本人でしょ。ホラーだなんて嘆かわしい。怪談と言いなさい怪談と」
「どっちも、似たようなもんでしょ」
「ぜんぜん違うわよ。ちょっと照明さん、照明落としてちょうだい」
「あ、はい」
 照明係が、セットの照明を落とした。まだ午前中のはずなのに、部屋の中が暗くなった。なぜかというと、ここは撮影セットだからなのだった。
「おほほ。いいことみなさん。怪談っていうのはね―― ちょっと待ってね。準備がいるのよ。ちょっと照明さん、ライトに青いフィルターつけて持ってきてちょうだい。スタイリストさん、髪の毛のセットお願いね。濡らすのがポイントよ。濡れた髪の毛をね、ちょっとつまんで唇で口惜しそうに噛むの」
 照明係が、ライトを用意して、BUTAPENNの下から当てた。スタイリストがBUTAPENNの髪の毛を、いい感じで乱し、水をつけて顔に貼り付けた。さらに大道具係が、スモークを焚いた。
「さあ、行くわよぉ〜」
 BUTAPENNは、ゆっくりとshionたちをふりかえった。
「うらめしや〜 呪い殺さでおくものか〜」
「ひえええええっ」
 shionたちは、ざざざーっと、後ずさった。
「ちょ、ちょっと女将さん、怖すぎよぉ!」
 と、shion。
「いやーん。鹿の子、今晩トイレにいけない!」
 鹿の子も叫んだ。
「さ、さすが女将さん。幽霊役も板についていらっしゃる」
 TERUも青ざめた。
「おほほ。さすがのTERUさんも、幽霊は守備範囲外かしら」
「うっ。そ、そーいわれると、闘争心がかきたてられますな。ぼくはこの世のすべての女性をこよなく愛すると、幼少のころに誓った男です。幽霊だって、ウエルカムです」
「あら、そうこなくっちゃ」
 BUTAPENNは、幽霊ライトを下から当てたまま言った。
「いいわよ、坊や。いらっしゃい。お姉さんが相手になってあげるわ。早いかどうかも確かめてみたいし」
「やだなあ女将さん。またそれを言う」
「いいかげんにしなさーい!」
 shionが、部屋の照明をつけた。
「勝手にアダルトビデオやってんじゃないわよ! だいたい、こんなことやってたら、いつまでたっても話が進まないでしょうに!」
「おほほ。shionちゃんったら、焼き餅焼いちゃって。かわいいわねえ」
 BUTAPENNの幽霊…… じゃなくって、死体は、楽しそうに笑った。





 すっかり、BUTAPENNに翻弄されたところに、とっとがやってきた。
「いやあ、どうもどうも、みなさんおそろいで」
「遅かったじゃない」
 と、BUTAPENNの死体。
「間を持たせるのに苦労したわ」
 苦労したのかァ? と、TERUたちは首をひねったが、声には出さなかった。
「ははは」
 とっとは笑った。
「すいませんね女将さん。では、死体に戻ってください」
「はいはい。じゃあ、あとは任せたわよ」
 BUTAPENNは、死体に戻った。
 そのとたん。
「やや!」
 とっとは、わざとらしく驚いた。
「女将さんが殺されてるじゃないですか! わたしが仙台に出張している間に、こんな悲劇が起こったなんて!」
「仙台ですと?」
 と、TERU。
「とっとさん、仙台にいたんですか?」
「そーなんですよ! ええ、たったいま、新幹線で東京に戻ったところでしてね。いやあ、それにしても大変だなあ。女将さんが殺されてるなんて、いったい犯人はだれですか?」
「それは……」
 TERUは、なにか言いたいのを懸命にこらえて答えた。
「まだわかりません」
「はははは。そーでしょうとも。わかりませんよねえ。ところで、女将さんの殺された時間は何時でしょうね?」
「さあ?」
 TERUは首をひねった。
「こんなフレッシュな死体ですから、たったいま殺されたんじゃないですか。いまにもむくっと起き上がりそうだ。というか、起きてました」
「なに言ってるんですか」
 とっとは、少し怒ったように言った。
「そんなわけないでしょう。きっと、きのうの晩に殺されたんです」
「そうなんですか?」
「いえ、なんとなく、わたしが仙台にいる最中に殺されたんじゃないかなと思っただけです。ええ、なんとなくね。ははは。こういうのは、ちゃんと警察に検死してもらわなきゃいけませんな。さあ、警察を呼びましょう。ははは」
「とっとさん」
 と、shion。
「バカに楽しそうじゃない」
「え? なに言ってるんですか。わたしは女将さんが殺されて悲嘆にくれてるんですよ。さあさあ、そんなことより、警察を呼んで死亡推定時刻を調べてもらいましょう」
 とっとが警察を呼び、現代の優秀な検死官が、部屋の暖房が効いていたことなど、あらゆることを子細に検討した結果、BUTAPENNが殺されたのは、昨晩の午後十時から十一時の間と決定された。





「そうですか」
 とっとは、検死の結果を見ながらうなずいた。
「女将さんは、昨晩の午後十時から十一時の間に殺されたわけですね。みなさんには、その時間アリバイはありますか?」
「はいはいはい!」
 鹿の子が手をあげた。
「わたし、その時間は四チャンネルの火曜サスペンス劇場見てました!」
「ほう」
 とっとは、こめかみをピクピクと痙攣させた。
「日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)の支配人のくせに、ライバルテレビ局のサスペンス番組を見ていたと。そーおっしゃるわけですか」
「だってぇ、火サスおもしろいんですものぉ。きのうなんか、『網走の山中、密室の鐘つき堂で起きた殺人事件。愛憎の果てに、忌まわしい十年前の真実がよみがえる…… 観光の名所網走で起こる第二、第三の殺人! 22:59発スーパーひたちの時刻表に隠されたトリックとは!? 名探偵、八神長平はアリバイを崩せるのか!?』なんですよ。もうこの予告欄見ただけで、見なくっちゃって思いません?」
「思いません」
 とっとは、キッパリ言った。
「えーっ、なんでなんで? 来週なんて『東京市警、結城詩音シリーズ。衝撃のSFサスペンス。群馬湯けむり温泉、女ひとり旅。猟奇放火事件』ですよ。見たいでしょ?」
「見たくありません」
 とっとは、やはりキッパリと言ったあと、鹿の子に迫った。
「それはまあいいとして、問題は、鹿の子さんが、火サスをリアルタイムで見ていたと証明できる人がいるかどうかです」
「家族で見てましたけどぉ。それじゃダメ?」
「ふむ。まあいいでしょう」
 とっとは、うなずいた。
「では、つぎにいきましょう。shionさんはいかがですか? アリバイはありますか?」
「わたし?」
 shionは、自分を指さしたあと、TERUをちらっと見た。
「わたしはそのォ、なんというか…… いやん。恥ずかしい。ダーリンが言ってよ」
「ほう」
 とっとは、TERUに向きなおった。
「なんとなく答えは予想できる気もしますが、shionさんと、なにをやってらしたんですかTERUさん」
「ジグゾーパズルです」
 と、TERU。
「またまたぁ」
 とっとは苦笑した。
「いまどき小学生だって、そんな冗談で笑いませんよ」
 鹿の子は、とっとの言葉を聞いて、笑いたいのを必死にこらえた。
「いや、冗談ではありません」
 TERUが応じた。
「こう、身体と身体をですね、どのように組み合わせれば、斬新で独創的な体位を産み出せるかを、真摯かつ真直に研究していたわけでして――」
「はいはい。それ以上は言わなくてよろしい。まったく、うっかりすると、すぐ話がそっちに行っちゃうんだから。TERUさんとshionさんのアリバイも信じることにしましょう」
「なんか、腑に落ちない言われようですが」
 TERUは、肩をすくめながら言った。
「まあいいや。アリバイを信じていただけたところで、あとは警察に任せましょう。ハニー、鹿の子さん。帰りますよ」
「こらこらこらこら」
 とっとは、帰ろうとするTERUを引き止めた。
「あんたが帰ってどーするんですか。事件を解決してってくださいよ」
「なんで?」
「なんでじゃないでしょ、なんでじゃ。わたしはね、TERUさんの活躍の場を作ろうとして、こんなに苦労してるんですよ。そのへんわかってますか?」
「いや、まあ…… それはその、大変ありがたいとは思いますが……」
「でしょう! いやあ、そう思っていただけると信じてましたよ。では、わたしのアリバイを聞いてください」
「どうしても?」
「どうしてもです」
「はあ」
 TERUはタメ息をつくと、気乗りしない顔で聞いた。
「では、お聞きしますが、とっとさんは、きのうの晩、どうしてましたか?」
「ふふふ」
 とっとの瞳がキラリーンと光った。
「いやあ、そういわれても困ったなあ。きのうは、午前中からうちの会社の仙台支社に出張でしてね。 まあ、昼間はいろいろ営業に回りましたよ。それで、支社に戻ったのは、そうだなあ、 何時ごろだったかなあ、夜の七時十六分三十七秒だったかな。そのまま同僚三人と、 仙台駅の近くの居酒屋に飲みに行きました。いや、ハッキリとは覚えてないんですが、 店に入ったのは七時二十八分四十六秒でしたかねえ。これまたハッキリとは覚えてないんですが、 店を出たのは、九時五十八分二十七秒だったと思います。いや、ハッキリとは覚えてませんがね。 それから、宿をとったホテルに戻りまして、フロントで鍵をもらったのが……  うーん。何時だったかなあ。よく思い出せないなあ。十時二十二分十八秒だったかな。 まあ、たぶん、そのへんの時間ですよ。それからあとは、ずっとホテルにいました。 あ、もしお疑いでしたら、同僚に電話していただいてもいいし、 泊まったホテルのフロントに確認していただいてもいいんですよ。と、こんなところですが、いかがです?」
「聞いたぼくがバカでした」
 と、TERU。
「ふふふふふ。そーでしょうとも。わたしの鉄壁のアリバイを崩すのは容易ではありませんよTERUさん」
「うーむ」
 TERUは腕を組んだ。
「しかしですね、とっとさん。あなたの犯行には大きな欠点があります」
「わたしの犯行? なんのことですか? わたしは仙台にいたんですよ」
「いや、そういうことじゃなくて」
 TERUは、とっとに小声でささやいた。
「女将さんが殺された時間、とっとさんは仙台にいたわけですよね。つまり、 鉄道だろうと車だろうと飛行機だろうと、どんな乗り物を使っても、とっとさんが、 女将さんの家にいるのは不可能なわけですよ、物理的に。ドラえもんがいれば話はべつですが、 そういう話じゃないでしょこれは?」
「そりゃそうですよ。マジメなミステリーです」
「ということはですね、これは時刻表ミステリーではなく、単なるアリバイ崩しモノですよ。 乗り物を使うのは不可能なんだから、電車の時刻表を見て解ける謎じゃない。 女将さんの死亡推定時刻を狂わすような仕掛けを考えるタイプなんじゃないですか?」
「ほーう。TERUさんともあろう方が、弱音を吐くんですか?」
「え? じゃあ、乗り物で解決できるんですか?」
「さあ、そんなことは一言も言ってませんよ」
「うーむ。今回は本気でミステリーする気ですね、とっとさん」
「ははは。TERUさんのせいで、すっかりミステリーづいちゃいましたからね。 がんばって推理してくださいよ」
「まいったなあ」
 TERUは、頭を掻いた。
「ははは。では、ひとつだけヒントを差し上げましょう。女将さんの死亡推定時刻は、 間違いなく、きのうの晩の午後十時から十一時の間ですよ。これだけは保障します」
「そんなのヒントでもなんでもないですよ。よけい難しくなっただけだ」
「はははは。そーですかね?」
 とっとは、意味ありげに笑った。





「えー、そういうわけで」
 と、TERU。
「今回は、アイバイ崩しモノということなので、細かいことは一切省いて、とっとさんが怪しいという前提からはじめたいと思います。異存はないですね、とっとさん?」
「ははは。崩せるものなら崩していただきましょう」
「あら」
 と、BUTAPENNの死体。
「やっと、その気になったのねTERUさん」
「わーっ!」
 TERUは驚いた。
「お、女将さん、警察の死体安置所に行ったんじゃないんですか?」
「やあねえ、あんなとこ退屈で寝てられやしないわよ。若くてハンサムな男の死体がゴロゴロしてるっていうなら話はべつだけど」
「なんか想像するとシュールね、それ」
 shionが苦笑した。
「あーっ」
 と、鹿の子。
「女将さん、その髪飾りオシャレ!」
 鹿の子がBUTAPENNの額を指さした。BUTAPENNは、幽霊がよくしている、三角形の白い布を頭に巻いていた。
「おほほ。幽霊のたしなみってヤツよ。この日のために、白装束も用意したんだから」
「凝ってるわあ」
 と、鹿の子。
「さすが女将さん。トラディッショナルよね」
「えーっと、話を進めていいですか?」
「あら、ごめんなさいねTERUさん。ヘボな推理をはじめてちょうだい」
「はいはい。どうせ、ヘボいですよ」
 TERUは、ちょっとスネながら続けた。
「一応、とっとさんは時刻表を使った鉄道ミステリーを目指したみたいですから、時刻表を調べるところはじめなきゃならんでしょうね」
「用意しときましたよ」
 とっとは、JR時刻表を出した。
「さあどうぞ。どこからなりと攻めてください」
「ちぇっ。どうせ無駄なんでしょ。鹿の子さん、すいませんが、東北新幹線の仙台発東京行きの最終電車を調べてもらえませんか?」
「はーい」
 鹿の子は、時刻表をパラパラとめくった。
「あの、TERUさん」
「はい?」
「時刻表って、どうやって見るんですかぁ?」
 ガクッ。一同ズッコケた。
「鹿の子ちゃん、ナイスなボケね」
 shionは、苦笑しながら時刻表を見た。
「えっとダーリン。新幹線の最終は、21:39発の、やまびこ72号ね」
「九時三十九分か。どちらにしても、とっとさんは、その時間、同僚と仙台駅の近くの居酒屋で飲んでいた。最終の新幹線に乗るのは不可能だ」
「そうね。一応言っておくと、やまびこ72号が東京に着くのは23:44分よ。もし、この最終に乗れたとしても、女将さんを殺すのは不可能だわ」
「万事休すだね。新幹線がダメなら、車で間に合うはずもないし」
「飛行機は?」
「無駄だと思うが、一応調べるか」
 TERUは、飛行機の発着時間を調べた。
「ダメだ。仙台駅から仙台空港に行くだけで、四十分近くかかるし、成田行きは一日二便しかない。最終便の時間は16:10だ…… ん? 待てよ」
「どうしたのダーリン?」
「ハニー。こういう推理はどうだ? とっとさんは昼間営業に出ていたと言った。ということは、この間のアリバイはないのかもしれない。16:10分の成田行きに乗れば、東京に六時前には着けるだろう。そこで女将さんを殺害してから、同僚と酒を飲みに行った七時半前までに仙台に戻れないだろうか?」
「待ってよダーリン。それだと、女将さんの死亡推定時刻はどうなるのよ?」
「ドライアイスで冷やして、推定時刻を狂わせたとか」
「いや、TERUさん」
 とっとが口をはさんだ。
「さっき、死亡推定時刻は正しいとヒントを差し上げたじゃないですか。わたしはアンフェアをやるつもりはありませんよ。信じてください」
「だったら、ぜったいに不可能じゃないですか」
「さあ、どうでしょうねえ?」
 とっとは、ニヤニヤと笑った。
「くそっ」
 TERUは、悪態をついた。
「だいたい、女将さんの死亡推定時刻に、とっとさんが仙台にいたのも間違いないんだから、電車だろうが飛行機だろうが、時間なんて調べたって無駄なんだ。しかし、いったいどうやって…… むむむ。わからん」
「おほほほほ」
 BUTAPENNが高笑いした。
「TERUさんが悩んでるわ。してやったりね」
「まったくですね。苦労して女将さんを殺した甲斐がありましたよ」
「わたしも、とっとさんに殺された甲斐があったわあ」
 鹿の子は、とっととBUTAPENNの会話を聞いて、瞳を輝かせた。
「おふたりとも、大人だわぁ」
 そうか?





「視点を変えよう」
 TERUは、部屋の中をうろうろしながらつぶやいた。
「これは時刻表トリックじゃない。つい時刻表を調べたくなるような設定は、 ミスリードに違いない。べつの、トリックがあるはずだ」
「ダーリン。問題を整理してみたほうがいいんじゃない」
 と、shion。
「同感だ」
「犯人がとっとさんだとすると、女将さんを殺す動機はなにかしら?」
「動機?」
「息切れめまいのことじゃないわよ」
「ハニー。マジメに考えてくれよ」
「あはは、ごめん、ごめん、ジョーダンよ」
 鹿の子は、shionがあっさり謝ってしまったので、バッグから求心を取り出すタイミングを失った。
「ハニー」
 と、TERU。
「この手のアイバイ崩しモノの犯人に、動機なんてあってないようなもんだ。トリックを作り出すことが犯人の存在意義そのものだからな」
「そっか。そういう推理は無意味なわけね」
「そう。この手のミステリーでは、状況証拠だけが頼りだ」
「じゃあ、その状況を整理しましょう」
「よし。まず女将さんが全裸で殺されていた理由を考えよう」
「それは、ここが日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)だからよ。お色気は必要だわ」
「そりゃそうだけど、どうも引っかかる」
「どこが?」
「これもミスリードのような気がするんだ。とっとさんは、われわれを惑わせることができる手段を、すべて使ったんじゃないかな」
「じゃあ、女将さんが全裸で殺されていたのは不自然だと言いたいの?」
「常識的に考えればね。じつは、とっとさんが女将さんの愛人だったというなら、女将が全裸なのもうなずけるが、そうじゃないだろ?」
「まあ…… ね」
 shionも、そういわれて考え込んだ。
「とっとさんは、なぜ女将さんを殺したあとに、彼女の着物を脱がせたのか。という謎があるってことね」
「はいはいはい!」
 鹿の子が手をあげた。
「わたし、わかりまーす!」
「ほお」
 と、TERU。
「鹿の子さんの推理を拝聴しましょう」
「それはですね」
 鹿の子は、雰囲気を盛り上げるために、ゴクリとつばを飲みこんでから言った。
「とっとさんがスケベだからでーす!」
 ガクーッ。と、ズッコケたのは、とっとだけだった。
「あのね、鹿の子さん! そりゃあんまりな推理じゃないですか!」
 とっとは文句を言ったが、TERUとshionは、うなずいた。
「ありえる話だな」
「TERUさん。マジメにやってくださいよ〜」
「スケベ心からじゃないと言いたいんですか?」
「違いますよ。まあ、多少は…… いえいえ、断じて違います」
「ふむ。やはり理由があったか」
「あっ」
 とっとは、しまったとばかり、口をふさいだ。
「とっとさん」
 BUTAPENNが、とっとを肘でつついた。
「ダメじゃない、TERUさんの誘導尋問に引っかかっちゃ。しらんぷりしてなさい」
「す、すいません女将さん、つい。一応、妻も子もいる身なんで否定しとかなきゃヤバイかなと」
 TERUは、また腕を組んで、部屋の中をうろうろしはじめた。
「とっとさんは、なぜ、女将さんの着物を脱がしたのか。そういえば、この部屋に最初入ったとき、暖房も効いていたな。あれも気になる。なにか理由があるはずだ。なぜ部屋の温度を上げる必要があったのか」
「はいはいはい!」
 鹿の子が手をあげた。
「鹿の子わかりまーす!」
「ほう。拝聴しましょう」
「女将さんが裸で寒かったからでーす!」
「あのね」
 TERUは頭を抱えた。
「女将さんは、すでに死んでるんですよ。寒いのも暑いのも関係ないんです」
「あ、そうか。てへへ。間違えちゃった」
「気を取り直して」
 と、shion。
「ふつうに考えれば、女将さんの脂肪推定…… じゃなくて死亡推定時刻を狂わせるためよね」
「shionちゃん。いま、サラリと気になること言ったわね。脂肪がなんですって?」
「や、やあねえ女将さん。日本語変換のお茶目なジョークよ」
「まあ、まあ、お二人とも。いまはTERUさんの推理を拝聴しましょう」
 とっとが、BUTAPENNとshionの間に入った。
「さあ、TERUさんどうぞ」
「どうも。部屋の暖房は死亡推定時刻を狂わせるためと考えられないこともないが、残念なことに、死亡推定時刻は正確なんだ。警察が暖房の効果まで考慮して計算した時間だから、この前提は崩せない……」
 TERUは、そこまで言うと立ち止まった。
「あ、そうか。もしかすると」
 TERUは、なにかに気づいたらしく、インターネットで、全国の天気を調べた。
「なるほど。そうか。そういうことだったか」
「ダーリン、わかったの?」
「ああ。たったいま、このミステリーの謎がすべて解けた」
「なになに? 教えて!」
「ハニー。事件を解く鍵はすべて提示された。きみにももうわかるはずだ」
「やあねえ、ダーリンたら。わかるわけないじゃない。教えてよ」
「はいはいはい!」
 鹿の子が手をあげた。
「わたし、わかりまーす!」
「ほ、ほう」
 TERUは、口元をピクピクさせた。
「例によってお約束のボケを聞かされるだけって気がしますが」
「やだなあTERUさん。わたし、こう見えてもアガサ・クリスティのファンですよ。こんな推理、朝飯前だけど、朝御飯はしっかり食べる鹿の子でーす」
「すでにボケてらっしゃるようですが、謹んで拝聴しましょう」
「はい。ズバリ犯人は通りすがりの――」
「いきなり間違ってるんでもういいです」
「えーっ、ぜんぶ言ってないのに!」
「時間がもったいないので割愛します。さて、とっとさん」
 TERUは、とっとに向きなおった。
「あなたのアリバイは崩れました」
「ほう。それは、ぜひお聞きしたいですな」
「ちょっと待って!」
 BUTAPENNが叫んだ。
「ダメよTERUさん、推理を披露するときは舞台装置に凝らなきゃ。ちょっと大道具さん、イギリス風の家具持ってきて、壁に暖炉を造ってちょうだい。あ、それとTERUさんには、パイプを持たせるのよ。ちょっとshionちゃん、あんたもなにボケっとしてんの。美人アシスタントらしく、お固いスーツに着替えてらっしゃい。鹿の子ちゃんも、メイドさんの服に着替えて、みなさんにお茶をお持ちするのよ」
「えーっ、わたしメイドさん?」
「そうよ。かわゆいメイドさん」
「かわゆいメイドさん…… わかったわ女将さん。鹿の子がんばる」
「そう、その意気よ。ほら、みんな早くなさい。放送時間がなくなるわよ!」

 で、十分後。TERUはパイプを持って暖炉の前に立っていた。その隣には、 ひと昔の美人秘書という感じの、ちょっとつり上がった眼鏡をかけた shionが立っていた。

「なんだか、今回は女将さんにやられっぱなしね」
 と、shion。
「ホントにねえ。元気な死体で困る。パイプなんて吸ったことないよぼくは」
 TERUとshionは苦笑し合った。
 そのとき。
「お待たせしましたぁ」
 鹿の子が、銀のお盆にコーヒーカップを乗せて持ってきた。
「どうぞぉ。 鹿の子特製の、かっぽんカフェラテですぅ」
「おお、これが噂の!」
 とっとが、感激した。
「いやあ、鹿の子さんの、かっぽんカフェラテが飲めるなんて感激ですね」
「おほほ。鹿の子ちゃん、かわゆいわよ」
「えへへ。女将さんにほめられちゃった」
 鹿の子は柄にもなく照れた。
「さあ、これで舞台装置は整ったわ。TERUさん、うんと盛り上げなきゃダメよ」
「は、はあ。まあ、がんばってみますか」
 TERUは、パイプに火をつけてから続けた。
「では、昨晩、なにが起こったかお話ししましょう。女将さんは、夜の十時から十一時の間に殺害された。これは、日本の優秀な警察が調べた結果なので間違いありません。ところが、もっとも容疑の濃いとっとさんは、その時間仙台にいた。いままで話してきたとおり、とっとさんが、女将さんの家で彼女を殺害することは不可能なのです」
「そうですよ」
 とっとがうなずいた。
「わたしのアリバイは完ぺきだ。犯人呼ばわりされたくありませんな」
「役になりきってますなとっとさん」
「ははは。自分の犯罪が暴かれる瞬間こそ、犯人の一番の醍醐味ですからね。存分に楽しませていただきますよ」
「いいでしょう」
 TERUは、軽く笑いながら言った。
「では、ぼくも探偵になりきりますよ。まずぼくは、不可能という言葉に惑わされました。思考が一方通行だったのです。そう。一方通行ではないのですよ」
「TERUさん、言ってる意味がわかりませーん」
 鹿の子が手をあげた。
「わかりやすく説明してちょんまげ。よろぴく」
「いいですか鹿の子さん。女将さんが殺されたのは、自分の家だったと決めつける必要はないということです」
 TERUは、ちらっととっとを見た。
 とっとは、ゴクリとつばを飲みこんだ。
「そうなのです」
 TERUは、ニヤリと笑った。
「女将さんは、仙台にいたのです」
「えーっ!」
 shionが、わざとらしく驚いた。
「それって、どういうことなの?」
「おそらく、とっとさんが、日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)について相談したいことがあるとか、あるいは、おいしい牛タンの店があるとか言って、女将さんを呼び出したのだろう」
「きっと牛タンの店ね」
 と、shion。
「まあ、それはいいとして、そのあとは?」
「うん。十時半ごろ、仙台駅で落ち合う約束をしたのだと思う。とっとさんは、同僚たちと別れたあと、いったんホテルに戻り、そのあとそっとホテルを抜け出して、女将さんと落ち合った。そして、女将さんを車に乗せて、東京方面に向けて走り出した。十分か二十分か走って、人気のないところに出ると、そこで女将さんを殺害した」
「バ、バカな」
 とっとは、吐き捨てるように言った。
「そんなこと不可能だ」
「可能ですよ。女将さんを殺害したあと、とっとさんは、女将さんの死体をトランクに押し込んで、高速に乗り、東京に向けて走りました。昨晩は全国的に雨が降っていましたが、最近の車は性能がいいですからね。深夜ということもあって、三時間半ぐらいで東京の女将さんの自宅に着いた。そこで、女将さんをトランクから出したのですが、このとき、とっとさんは、重大なことに気がついたのです」
「ふん」
 とっとは、鼻を鳴らした。
「いったい、なにに気がついたというんだ」
「トランクの中が、予想以上に熱かったんですよ。かなりのスピードで走ったせいでしょう。マフラーの熱がトランクの中を温めていたのです。ここでとっとさんは青くなった。死体が温まってしまい、死亡推定時刻が狂ってしまうと思ったのです。死体が温まるわけですから、死亡推定時刻は早まります。午後の六時とか、五時とか、そういう時間になるかもしれない。となると、とっとさんが、仙台から新幹線を使って東京に戻る時間的余裕ができてしまうことになる。せっかく、女将さんを十時から十一時の間に殺害したのに、そのもっとも重要な部分が崩れてしまうのです」
「そうか」
 shionはうなずいた。
「それで部屋の暖房を入れて、もともと温まっていたと警察に思わせたわけね」
「そう。とっとさんの機転には感心するね」
 TERUは、パイプの煙を吐き出した。
「つぎに、女将さんの着物を脱がした理由だが、ぼくは最初、女将さんの愛人が犯人ではないかと思わせる手段だと思った。もちろん、そういう思惑もあっただろうが、とっとさんには、どうしても女将さんの着物を脱がさなければならない理由があったんだよ」
「というと?」
「さっきぼくは、昨晩は全国的に雨だったと言ったね。当然、道も濡れている。仙台あたりで人気のない場所だと、舗装されていなかたかもしれない。まあ、舗装されていたとしても、女将さんを引きずってトランクに入れたりしている間に、泥や汚れた水が着物についたことだろう。それが発見されては、女将さんが自分の部屋で殺されたのではないと、一発でバレてしまう。だから、とっとさんは、どうしても女将さんにはヌードになってもらわなければならなかったんだよ。とっとさんは、女将さんをベッドに寝かせたあと、また車を飛ばして仙台に戻った。朝の六時ごろにはホテルに戻って、何食わぬ顔で会社の経費で朝食をとり、チェックアウトして新幹線で東京に戻ってきたというわけさ」
「ダーリン。冴えてるわね」
 と、shion。
「うん、TERUさん、今回はカッコいいわ」
 と、鹿の子。
「おほほ」
 BUTAPENNも笑った。
「ちょっと付け焼き刃って気もするけど、それなりに雰囲気は出てたわね。ま、ギリギリ合格ってことにしてあげましょう」
「ありがとうございます」
 TERUは、英国紳士のように、丁重に礼を言った。
「美しいご婦人方によろこんでいただけて、ぼくもうれしいですよ」
 そして、全員の視線がとっとに注がれた。
 とっとは、額から脂汗を流していた。
「し、しかし、そんなことは…… いや、証拠はあるんですか、証拠は」
「仙台駅の駐車場に、とっとさんの車が駐車してあるでしょう。その車の中から、女将さんの着物も発見されるんじゃないかな」
「オッケイ! すぐ仙台の警察に連絡するわ!」
 shionは、携帯電話を取り出した。
「ま、待ってくれ!」
 とっとが叫んだ。
「わ、わたしは…… わたしは…… そうです。わたしがやりました。TERUさんの推理どおりです」
「やった!」
 鹿の子が飛び上がった。
「事件解決だわ!」
「まだです」
 と、TERU。
「動機はなんです? なぜ女将さんを殺したんですか?」
「動機?」
 とっとは、苦笑した。
「それは、さっきTERUさんが言ったじゃないですか。この手の犯人には、動機など関係ないと」
「いや、それはミステリー小説の話ですよ。現実的には、動機があるものでしょう」
「ふふふ。だからですよ」
 とっとはそう言って、鹿の子の淹れた、かっぽんカフェラテに手を伸ばして一口飲んだ。
 そのとたん。
「うっ! く、苦しい!」
 とっとが苦しみだした。
「しまった!」
 と、TERU。
「とっとさん、毒を飲むなんてバカなことを! そこまで犯人になりきることはないでしょうに!」
「ち、違うんです……」
 とっとは、真っ青になりながら言った。
「か、鹿の子さんの、かっぽんカフェラテ、牛乳が腐ってます」
 ガクーッと、TERUはずっこけた。
「おほほ」
 BUTAPENNが笑った。
「やっぱり、最後は決まらないのねえ、このワイド劇場は」

 おわり。





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