日々楽々ワイド劇場―――『ある、女主人の悲劇。』


 作者:TERUさん


 1

 その日。日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)の落成披露パーティーが、支配人である鹿の子の自宅で行われることになっていた。
 TERUとshionが、鹿の子のうちに到着すると、すでに、発起人であり、第一回作者のとっとと、第二回作者のBUTAPENNが先にきていた。
「やあ、どうも」
 TERUは、玄関の前で談笑している二人に声をかけた。
「あら」
 と、BUTAPENNは、TERUたちに言った。
「またまた、仲良くご登場ね。shionちゃんも、同伴出勤が板についてきたわねえ」
「またそういうことを」
 TERUはBUTAPENNに苦笑した。
「ねえ、そんなことより」
 と、shion。
「こんなところでなにやってるの? さっさと入りましょうよ」
 すると、とっとが答えた。
「ええ。そうしたいんですけどね。どういうわけか、鍵がかかってるんですよ」
「鍵?」
 TERUが聞き返した。
「錠前ですよ。英語で言うとキーですな」
「知ってますよ、それくらい!」
「冗談です。とにかくドアが開かないんです」
「変ねえ」
 shionが首をかしげた。
 そうこうするうちに、ほかの招待客もぞくぞくと集まりはじめた。
「ふむ。鹿の子さん、時間を間違えてるんじゃいか。あの人ならありそうだ」
 とTERU。
「そうねえ。もうちょっと待ってみましょ」
 BUTAPENNがうなずいた。
 だが、三十分ほど経っても、鹿の子は帰って来なかった。
「まいりましたね」
 とっとが言った。
「こんなところで突っ立ってたら、風邪を引いてしまう」
「ねえ、どっか開いてない? 窓とか」
 shionが言った。
「よし。探してみよう」
 TERUがうなずいた。
「えっ、待ってくださいよ」
 とっとが、TERUを止めた。
「もし、窓が開いてたって、勝手に入っていいんですか? 家宅侵入罪ですよ」
「客を待たせる鹿の子さんが悪い」
「そ、そりゃそうですが……」
「そうよそうよ」
 shionがTERUに加勢した。
「あたし、花粉症なのよ。ずっと外にいたら、またぶり返しちゃうわ」
「というわけで、探索だ。とっとさんも手伝ってくださいよ」
「はいはい。わかりましたよ」
 TERUと、とっとは、鹿の子の自宅の窓や、勝手口など、とにかく、人が入れそうなところを、片っ端から調べた。
「ダメだ。ぜんぶ鍵がかかってる」
 TERUは、眉をひそめた。
 すると。とっとが、ほかの客たちに聞こえないように、小声で言った。
「TERUさん。こりゃ、あれですね」
「あれ、とは?」
「密室殺人ですよ。密室」
「うん。まあね」
「いまどき、密室殺人なんて流行りませんよ。TERUさんらしくないなあ。もっと、派手なアイデアはなかったんですか?」
「そうは言いますが、やはり密室殺人は、ミステリーの王道ですよ」
「TERUさんがそうおっしゃるなら、お手並み拝見といきますか」
「とっとさん、ミステリにはうるさいからなあ」
 TERUは苦笑しながら言った。
「とにかく、役に戻りましょうよ」
 二人は日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)のキャラクターに戻った。
「ダメだ」
 玄関で待つshionたちのところに戻ったTERUが言った。
「どこも鍵がかかってる。入れないよ」
「まったく。鹿の子ちゃんにも困ったモノねえ」
 BUTAPENNは、飲み屋の女将のような仕種で腕を組むと、ふうっとタメ息をついた。
「しょうがないわね」
 shionは、ハンドバッグから、黒い固まりを出した。
「ドアを爆破しましょう」
「待て、待て、待て」
 TERUが止めた。
「ミステリードラマで、爆弾を使うヤツがどこにいる」
「ちぇっ。でも、どうするのよ。いつまでもここに立ってるつもり?」
「うーむ。いたしかたない。放映時間の関係もあるし、窓を割って入ろう」
「爆破とそんなに違わないじゃない」
「だいぶ違うと思うけど……」
 TERUは苦笑を浮かべながら、庭から石を拾い上げて、窓ガラスを割った。外側から、手を突っ込み、窓の鍵を開ける。
「手慣れてますなあ!」
 とっとが、感心した声を上げた。
「ええ、むかしとった杵柄…… って、なにを言わせるんですか」
 そう言いつつ、開けた窓から、ひょいっと室内に侵入するTERUは、どうみても初犯ではない印象を与えてしまうのだった。
「運動神経がいいだけよ。誤解しないでね、みなさん。おほほ」
 と、shionは、立場上、TERUを擁護したが、心の中では、これからは窓だけでなく、雨戸もちゃんと閉めようと思うのだった。
 ドアの鍵が内側から開いて、TERUが出てきた。
「ダーリン、ナイス。やっぱり頼りになるわね」
 shionがそう言って、鹿の子のうちに入ろうとしたときだった。
「入るな」
 TERUが厳しい声で言った。
「な、なによ。どうしたの?」
 shionは、顔が青ざめているTERUを見て、怪訝な声で聞いた。
「し、死んでいる」
 TERUは、少し震えた声で言った。
「鹿の子さんが、中で死んでるんだ」
「えーっ!」
 一同は、TERUの言葉に驚いた。


 2


 鹿の子は、階段の下で、うつ伏せになって、こと切れていた。
「首が、刃物でざっくりやられてますね」
 とっとは、鹿の子の死体を調べながら言った。
「ああ」
 TERUも、鹿の子の死体を見下ろしながらうなずいた。
「しかし、それにしても、こんなときまで鹿の着ぐるみを着てるなんて」
 鹿の子は、鹿の姿で死体になっていた。
 そのとき。鹿の子の死体がむくっと起き上がった。
「ちょっと! いきなり死体で登場ってのは、ひどいんじゃありません?」
「わわっ」
 TERUが、あわてて言った。
「あんたはゾンビか! 死体役が起き上がっちゃダメでしょうに! ミステリーじゃなく、ホラーになってしまうじゃないですか」
「だって、だって、TERUさんひどい。さっきから『鹿の子の死体、鹿の子の死体』って、連呼するし」
「ほかに言いようがないじゃないですか」
「鹿の子ちゃんの、カワイイ死体とかは?」
「カワイイ鹿の子ちゃんの死体なら、まだ、なんとか意味は通じますが、カワイイ死体ってのは変でしょ」
「そうかなあ? かわゆく死んでたけどなあ」
「じゃあ、もう一回、かわゆく死んでてください」
「えーっ。やっぱり、いきなり死体なんてヤダぁ」
「屋敷の主人が殺されるのが定石でしょうに」
「それを言うんなら、パーティーがはじまって、フルーツパンチを飲んだときに、『うっ、く、苦しい〜』とかって死ぬのが定石でしょ」
「フルーツパンチが定石かどうかはともかく、そこまで書いてたら長くなっちゃうんですよ。首を切られて死んでたことにしてください。だいたい、今回は密室殺人なんだから」
「ちぇーっ。わかりましよ。かわゆい死体に戻りまーす」
 鹿の子は、またパタリと倒れた。
「打ち合わせは終わりました?」
 と、とっとが聞いた。
「ええ。すいません。とっとさんも、役に戻ってください」
「では……」
 とっとは、コホンと咳払いしてから言った。
「TERUさん。ぼくらが見回って、どこも鍵はあいてませんでしたよね?」
「ええ」
「なのに、鹿の子さんが、かわゆく殺されているということは……」
「ええ。これは、かわゆい…… じゃなくて、まぎれもなく、密室殺人です」
「えーっ!」
 とっとは、わざとらしく驚きの声を上げた。


 3


 招待客たちは、一様に動揺を隠せないようであったが、その中にあって、BUTAPENNとshionは、いち早く冷静さを取り戻し…… いや、もともと、動揺していなかったらしく、主のいなくなったキッチンで、勝手にお茶を入れて飲んでいた。
「それにしてもねえ」
 と、BUTAPENN。
「いまどき密室で殺されるなんてねえ。江戸川乱歩じゃあるまいし。さすが昭和の女ね」
「だいたいさあ」
 と、shion。
「同じ殺されるにしても、鹿の着ぐるみってのはないんじゃない?」
「そうね。鹿の子ちゃんも、まだまだ基本がなってないわね。全裸とまでは言わないけど、湯上がりで、バスタオルを巻いた姿ぐらいの配慮はほしかったわね」
 鹿の子の死体は、彼女たちの話を聞いて、こめかみに、ピクピクと青筋が浮かべた。招待客は、みな、それに気づいていたが、気づかないふりをした。
「あたしだったら、バスルームでシャワーを浴びてるときに殺されるわ」
 と、shion。
 BUTAPENNが苦笑した。
「やあねえ、shionちゃん。それじゃあ、ヒッチコックの真似になっちゃうでしょう」
「あら。サイコは名作よ。いいものは取り入れなきゃ。女将さんなら、どんなふうに殺される?」
「そうねえ。わたしだったら、ベッドの上で、男に首を締められるわね。アレやってる最中に」
「アレって…… つまり、男と女が、ベッドの上でやる運動のこと?」
「おほほ。ここは、日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)よ。そのくらい当然でしょ。それとも、女同士のほうが刺激的かしらん?」
「いや〜ん♪ 女将さんったらエッチなんだからァ」
「あの〜」
 招待客のひとりが、恐る恐る言った。
「そろそろ、警察に連絡しなくていいんですか?」
「いいのよ」
 と、BUTAPENNは、ひらひらと手を振った。
「どうせ、警察なんか来たって、役にたちゃしないんだから。それに、うちの男共が、探偵をやる気みたいだしね」
 TERUととっとは、この階段がどーの、この窓がこーのと、話し合っていた。
「あら、女将さん」
 と、shion。
「ここは、日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)なんでしょ? 美人OLが探偵やらなくっちゃ。あたしたちの出番よ」
「おほほ。shionちゃんも、まだまだわかってないわねえ。日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)の醍醐味はね、探偵役じゃないのよ」
「というと?」
「バカねえ。犯人役が、一番おいしいに決まってるじゃない」
「えっ! じゃあ、女将さんが、鹿の子ちゃんを?」
「うふふ。さあ、どうかしらね。犯人はあなたかもしれないわよ、shionちゃん」
「あたし? あたしはやってない…… と、言いたいところだけど、犯人役かあ。それもおもしろいかもね」
「でしょ。男共の、お手並み拝見といきましょ」
「さすが女将さんだわァ」


 4


「TERUさん。なんか女性陣が、いいたいこと言ってますよ」
「無視しましょう」
「それにしても、いったい犯人はどうやって鹿の子さんを殺したんでしょうね」
「うーむ。それはまだわかりません」
「本当に、BUTAPENNさんか、shionさんが犯人ですかね?」
「それもまだわかりません」
「TERUさん、TERUさん」
 鹿の子の死体が、顔を上げた。
「犯人だったらわかりますよ」
「そりゃ、あんたは被害者なんだからねえ」
「いえ、そーじゃなくって。新聞の予告欄を見ればいいんですよ。出てる役者を見れば、だいたいわかるじゃないですか。佳那晃子さんとか、沖直美さんとか。そう言えば、石野真子さんも、意外と怪しかったりすると思いません?」
「いいから、あんたは黙って死んでなさい」
「だって、退屈なんだもん」
 鹿の子は、ぶつぶつ言いながら、死体に戻った。
 ふう。と、TERUはタメ息をついてから、鹿の子の死体の周りを丹念に調べた。
「ガラスの破片が飛び散っているな。中にはかなり大きな破片もある」
「そうですねえ。そういえば、鹿の子さんの周りが、少し湿ってますね」
「よく気がつきましたね」
「ははは。これでもミステリーファンですから」
「すばらしい。では、そこからそんな結論が導かれますか?」
「うーん…… そういわれると困るなあ。どうせ主役はTERUさんでしょうから、推理はお譲りしますよ」
「ありがとう。では、みなさんに集まってもらってください」
「えっ? まさか、もう犯人がわかったんですか?」
「もちろんです。ここまでで、犯人を断定する証拠はすべてそろいました。とっとさんだけでなく、読者の方にも、もう犯人がわかるはずです」
「えっ、いや、わたしにはわかりませんよ」
「それは、見落としているだけですよ。とにかく、みんなを集めてください」
「わかりました」


 5


「ダーリン、もうわかっちゃったの?」
 shionが言った。
「当然だよ。ぼくは作者なんだから、どうとでも…… ゲホゲホ。そうじゃなくて、ぼくの頭のよさは、きみが一番よく知っているはずだ」
「おほほ」
 BUTAPENNが笑った。
「能書きはいいから、早く推理をはじめてちょうだい」
「いいでしょう」
 TERUは、咳払いをしてから言った。
「まず、最初に申し上げます。犯人は、この中にいます」
「えーっ!」
 一同ビックリ。
「そんなバカな」
「わたしじゃないわ」
 と、みんな、口々に言い合った。
「まあ、まあ、みなさん」
 とっとが、みなを鎮めた。
「落ち着いてください。まずは、TERUさんの話を聞きましょうよ。まずは聞きましょう」
 場が静まった。
「まず、このガラスの破片ですが」
 TERUは、話しはじめた。
「犯人自身が、ガラス製品を割ったものである可能性がきわめて高いと思います」
「どうしてそう思うの?」
 と、BUTAPENNは挑戦的な目つきで言った。
「それは、鹿の子さんが首を切られて死んでいるからです。面倒なので描写しませんでしたが、犯行に使われた凶器が発見できない以上、鹿の子さんは、このガラスの破片の一つで、首を切られたと考えられるのです」
「わかった!」
 とっとが、ポンと手をたたいた。
「ということは、犯人は鹿の子さんの顔見知りですな! ん? でも、顔見知りといえば、みんな顔見知りかァ。いや、これはわからん。お手上げだ」
「とっとさん。ヘッポコ刑事のような役をどうもありがとう」
「いえいえ。どーせ、その手の役回りだと思いましたから」
 TERUと、とっとは、奇妙な友情を確かめ合うと、また役に戻った。
「ねえ、ダーリン! じらさないで、さっさと犯人を教えてよ!」
「ハニー。せっかちだな。ベッドの上では早すぎるとか言うくせに」
「TERUさん、早いの?」
 と、BUTAPENN。
「オホン!」
 TERUは、大きく咳払いしてから続けた。
「では、鹿の子さん殺害の模様を再現してみましょう。こういうことなのです。鹿の子さんは、二階から水の入った花瓶を持って降りてくるところでした。そのとき。彼女は、誤って足を滑らせたのです」

 ここで、モノクロの映像が投入され、TERUの言った場面が再現された。

 ふんふんふん♪ と、鼻唄を歌いながら、階段を降りる鹿の子。そのとき、つるっと、鹿の足がすべり、きゃーっと、悲鳴を上げながら、鹿の子は持っていた花瓶を投げ出して、そのまま転んだ。

 再現シーン終わり。

「あっ。と、思ったときはもう遅く、鹿の子さんは、花瓶を投げ出して、階段の下に転びました。しかし、不幸なことに、そのとき花瓶のほうが先に床に落ちて割れました。その破片が、首に刺さって…… 鹿の子さんは死んだのです」
 しーん。と、しばらく沈黙が流れた。
「つまりその……」
 とっとが、こめかみに血管を浮かばせながら言った。
「これは事故だったと。そういいたいわけですかTERUさん?」
「そうです。鹿の子さんを殺した犯人は、鹿の子さん自身だったのです。ふだんの鹿の子さんを知っていれば、そのくらいのオトボケをやらかして、少しもおかしくない人物だと気づいたはずですよ、とっとさん」
「ちょっとォ!」
 鹿の子の死体が、むくっと起き上がった。
「それって、どーいう意味ですか、TERUさん!」
「わっ、また起きる。だめですよ、死体なんだから」
「ダーリン」
 shionも、こめかみに血管を浮かべていた。
「どうやら、たーっぷり自爆してもらわなくっちゃならないみたいね」
「アホらし」
 と、BUTAPENN。
「ま、TERUさんの書くミステリーなんて、こんなもんでしょうけどねえ」
「ちょ、ちょっと、ちょっと。みんななに怒ってるんだよ」
 TERUは、心外そうに言った。
「ぼくは、事件を解決したんだよ。もっと感心してくれてもいいじゃないか」
「バカーッ!」
 shionが叫んだ。
「こんなのシナリオで放送できるわけないじゃないのさ!」
 一同が、大きくうなずいた。

 TERUには、日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)の脚本を書く才能がないことが証明されたのだった。

 おわり。


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