日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)。

この番組は、薬用養命酒、常盤薬品、明和地所の提供でお送りします。(嘘です)

――『さらば愛しき人よ』


 作者:TERUさん


 ――プロローグ――


 その日。日本航空のボーイング747のエコノミークラスに、五人の怪しげな人物が乗っていた。言うまでもなく、日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)の連中だ。放送十回目を記念して、初の海外ロケなのだった。
「おかわり!」
 鹿の着ぐるみを着た鹿の子が、空になった機内食の容器をスチュワーデスに差し出した。
「大盛りにしてください、おねえさん!」
「お、お客さま」
 スチュワーデスは、口元をひくつかせた。
「申し訳ございませんが、機内食は、お一人さま一食となっております」
「えーっ。ケチ」
 鹿の子はスねた。
「じゃあ、冷凍ミカンちょうだい」
「お、お客さま。当機はJRの車内販売とは違うんですけど」
 そもそも、JRでも冷凍ミカンにはお目にかからない昨今だった。
「おほほ」
 お出かけ用の着物を着たBUTAPENNが言った。
「鹿の子ちゃんったら、いつでもどこでも、われを忘れない女ね。せっかく、前回の温泉編で女探偵にデビューしたのに、いきなりイメージぶち壊しでナイスよ」
「女将さん、それってほめてるんですか?」
 鹿の子が首をかしげた。
「おほほ。当たり前じゃない。やっぱり鹿の子ちゃんは二頭身キャラでなくっちゃね」
「どうでもいいけど」
 と、shionが口を挟んだ。
「こんなマズイ機内食をよく、おかわりする気になれるわね」
「え? マズイですか?」
 と、言ったのはとっとだった。
「うちのカミさんの、適当に愛のこもった、適当な弁当よりおいしいけどなあ」
「なに贅沢言ってるの」
 BUTAPENNが眉をひそめた。
「毎日毎日、お弁当作る身にもなってごらんなさい。毎回、おいしいお弁当なんか作ってられるものですか。いかに手を抜くかが、主婦の腕の見せどころよ」
「いや、まあ、そうなんでしょうけどねえ」
 とっとは、苦笑しながら頭を掻いた。
「あーん、こんなのじゃ足りない。鹿の子、お腹空いたァ」
 もう横にしか育たないのに、食欲旺盛な鹿の子だった。
「鹿の子ちゃん」
 と、BUTAPENN。
「あんた、夜食のおでんだけじゃ足りないの?」
「ギクッ。お、女将さん、なぜそれを?」
「あんたが、夜な夜なおでんを食べながらパソコンの前で居眠りしたり、コンビニの新商品(とくにお菓子類)を必ずチェックしているのは、日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)の読者ならみな知っていることよ」
「だってぇ、乙女心はいつだって、花より団子なんですものぉ」
「乙女って、あんた……三十年後も、同じこと言ってそうだけど」
 三十年後に、鹿の子のサイト「日々楽々」が、「日々達者」になっていることを、強く確信するBUTAPENNだった。そりゃ、これだけ元気なら達者だわなあ。
「あーん。お腹空いた。鹿の子死んじゃう」
「しょうがないわね」
 shionはそう言って、TERUの前にある、手をつけられていない機内食を鹿の子の前に置いた。
「はい。ダーリンの分を食べていいわよ」
「えっ! いいんですか?」
 鹿の子の瞳がキラリンと輝いた。
「いいわよ。どうせダーリン起きないでしょうから」
 TERUは、shionが言うとおり、シートを倒して爆睡していた。ドリンクのサービスが始まるやいなや、TERUはウイスキーの小瓶を飲んで、夢の世界に旅立っていったのだった。それはそうと、空調が適度な温度に機内を保っているにもかかわらず、TERUはトレードマークの黒い革のハーフコートを脱いでいなかった。
「なんだか、飲んだくれって感じですね」
 TERUとはうってかわって、キチンと背広を着た、ビジネスマン風のとっとが苦笑した。彼の背広は、奥さんがコーディネートしたのは間違いなかった。
「でも、変よね」
 と、BUTAPENN。
「TERUさんが、ウイスキーの小瓶ぐらいで寝ちゃうなんて」
「小瓶って言っても、三本ぐらい飲んでましたよ。それもストレートで」
 と、とっと。
「あらそう。でもねえ、ボトル一本ぐらい、平気で空けられそうだけど」
「そういえば」
 鹿の子が、TERUの機内食をもぐもぐ食べながら、思い出したように言った。
「TERUさん、成田で会ったときから疲れてたみたい。仕事が忙しかったのかしらん」
 そのとき。TERUが悪夢にうなされるように寝言を言った。
「う〜ん……ハニー……もう、ダメだ。勘弁してくれ……限界だよ」
 全員の視線が、shionに集中した。
「や、やだわ、ダーリンったら」
 と、shion。
「どんな夢を見てるのかしらね。ほほほ」
「っていうか、shionちゃん、TERUさんになにをしたの」
 と、BUTAPENN。
「そういえば、こないだTERUさんの誕生日でしたね」
 と、とっと。
「うわあ。shionさんったら、TERUさんと、あんなことやこんなことを?」
 と、鹿の子。
「あのね」
 shionは、三人の質問攻めに眉をひそめた。
「なに勝手に変な想像してるのよ。わたしは、ダーリンのお誕生日を楽しくお祝いしてあげただけよ」
「そりゃ楽しかったでしょうねえ」
 BUTAPENNは、まだ夢にうなされているTERUを見ながら苦笑した。
「TERUさんがヘロヘロになるぐらいなんですものねえ」
「もう、やあねえ。女将さんったら。生クリームたっぷりのケーキを食べさせてあげただけよ。きっと、甘いモノの夢でも見てるんでしょ。ダーリン甘いものそんなに好きじゃないから」
「おほほ。shionちゃんのことだから、自分の身体に生クリーム塗って、『召し上がれ』とか言ったんじゃないの?」
「うっ」
 shionは絶句した。
「おほほ。図星ね」
「いや〜ん」
 鹿の子は、顔を赤らめたが、機内食をもぐもぐ食べるのはやめなかった。
「shionさんったら、さすがアダルティだわ。さすがのTERUさんもご昇天なのねえ」
「相変わらず、欲望に自由な生活を送ってるなあ」
 とっとは、そう言ってから苦笑した。
「しかし、TERUさん。こんな調子でハードボイルドなんかできるんですかね?」
 それ以前に、このメンバーでと言うべきだった。
 それにしても、この連中、いったいどういう席順で座っているんだ。という疑問は持っていただきたくない作者だった。

 そんな一行が、ジョン・F・ケネディ空港に到着したのは、昼過ぎだった。
「わーっ」
 鹿の子は、きょろきょろ辺りを見回した。
「外人さんがいっぱいいるわぁ」
「おほほ」
 BUTAPENNが笑った。
「鹿の子ちゃん。言っとくけど、ここではわたしたちが外人さんなのよ」
「いやん、鹿の子ったら、ちょっとふり向いてみただけの異邦人なのね。ステキ。ところで、久保田早紀って、いまなにやってるんでしょうね?」
 相変わらずの鹿の子だった。ちなみに久保田早紀は、キーボード奏者の久米大作と結婚して、現在は、ゴスペル歌手として教会を中心とした音楽活動を行っているのだった。
「ダーリン。疲れはとれた?」
 shionがTERUに聞いた。
「まあね」
 TERUは、大きな伸びをした。
「うーん。われながらよく寝た。しかし、ニューヨークも近くなったもんだなあ。あっという間についちゃったね」
「そりゃ、飛行機の中で十時間も爆睡してれば、あっという間に感じるわよ」
 shionは、くすっと笑った。
「ハニーのたっぷりの愛のおかげでね。さあ、そんなことより腹が減った。イースト・ヒューストン・ストリートに、お気に入りのデリカテッセンがあるんだ。ホットパストラミサンドイッチが絶品でね。ちょうど昼時だし、食べにいこう」
「おほほ。さすがTERUさん。詳しいわね」
「いやいや。女将さんには負けますよ」
 TERUは苦笑した。BUTAPENNは、アメリカに住んでいたことがあるのだ。
「おほほ。わたし、カリフォルニアなら詳しいけど、ニューヨークはTERUさんにお任せするわ」
「了解です。日々楽々ワイド劇場(略して日ワイ)の撮影の前に、観光といきますか」
「ねえ、ダーリン」
 shionが、甘い声で言った。
「この間一緒に見た映画覚えてる?」
「ああ。メグ・ライアンのやつだろ」
「そう。ニューヨークの恋人。あれに出てた橋に行ってみたいわ」
「ブルックリン・ブリッジだね。あそこは夜になったら行こう。残念ながら、ワールドトレードセンターはなくなってしまったけど、橋の反対側から見るマンハッタンの夜景はすばらしいよ」
「あら、あの辺って夜は危ないんじゃないの?」
 BUTAPENNが聞いた。
「いや、最近は安全ですよ。まあ、どちらにしても、ぼくがついてれば大丈夫」
「うふ。ダーリン頼もしいわ」
 shionは、TERUの腕を抱いた。
「悪いヤツ、みんなやっつけちゃってね」
「おいおい。変な期待をしないでくれよ」
 TERUは、思わず苦笑した。
「ぼくは、観光客が近寄らないほうがいい場所を知ってるだけだってば」
「おほほ」
 と、BUTAPENN。
「今回はハードボイルドなんだから、がんばってちょうだい。そりゃそうとね。わたしはソーホーに行ってみたいからよろしくね」
「はいはいはい!」
 鹿の子が手をあげた。
「わたしは、エンパイヤステートビルに行きたいです!」
「わたしは、グラウンドゼロに行きたいですね」
 と、とっと。
「はいはい」
 TERUは苦笑した。
「見事にバラバラですね、われわれは。とにかく、まずは昼飯です」
 なにも食べていないTERUと、人一倍食べている鹿の子以外の面々は、機内食でお腹がいっぱいだったが、TERUがおすすめのサンドイッチには興味があった。
 一行が、タクシー乗り場に向かいかけたときだった。
「おい」
 と、TERUは背中から呼び止められた。
 TERUがふり返ると、そこには、目つきが悪く、かなり前髪の後退した白人がいた。その男は、茶色の紙袋を、有無を言わさずTERUに渡した。
「あとは任せたぜ、TERU。せいぜいがんばるんだな」
「あ、あんたは……」
 TERUは、眉をひそめた。まさかとは思うが、その男はブルース・ウィルスにそっくりだったのだ。
「おっと。そえ以上の詮索はなしだ。じゃあな」
 ブルース・ウィルスのそっくりさんは、そう言って足早に去っていった。
「なによあいつ。失礼しちゃうわね」
 shionは、立ち去る男を目で追いながら顔をしかめた。
「でも、ブルース・ウィルスによく似てたわねえ」
「まあね」
 TERUは、渡された紙袋を眺めた。
「ずいぶん重いな」
「爆弾だったりして」
 shionが笑う。
「やめてくれよ。ニューヨークでそれはヤバイって」
 TERUは苦笑しながら、紙袋の中身を見た。そのとたん。表情が氷のように固まった。
「どうしたの?」
 shionもまじめな顔になって聞いた。
「どうやら」
 TERUは、硬い表情のまま答えた。
「さっそく物語が始まってしまったようだ」
「なにが入ってたのよ?」
 と、shion。
 TERUは、shionに袋の中身を見せた。そこには一丁の拳銃が入っていた。
「こ、これって……」
 shionも、表情を硬くしてTERUを見た。
「ベレッタ92F」
 と、TERU。
「ハリウッド映画によく出てくる銃だよ。リーサルウエポンのメル・ギブソンが使っていた。そして、ダイハードでは、ブルース・ウィルスが使っていた」
「え? それじゃあ、いまの男……」
 shionは、驚いたように目を見開いた。
「ああ。どうやら、本物のブルース・ウィルスだったらしい」
「えーっ! うそーっ! サインもらうんだった!」
 shionは叫んだ。
「いや、そういう問題じゃないと思うけど」
 TERUは、思わず苦笑しながら、妙に静かなBUTAPENNたちをふり返った。
「よかったですねえ」
 と、とっとがニヤリと笑いながら言った。
「それって、TERUさん自身、一番好きな銃なんじゃないんですか?」
「おほほ」
 BUTAPENNも笑った。
「ハードボイルドに銃はつきものですものねえ。ちなみに、わたしの直感では、それ偽物じゃないわよ。実弾もちゃんと入ってるわ。気をつけてお使いなさい」
「TERUさん」
 鹿の子も、くすくす笑いながら言った。
「早くポッケにしまったほうがいいですよ。隠しとかないと捕まっちゃいますよ」
「陰謀を感じるな」
 TERUは日ワイの連中を見て苦笑した。
「ハニー。まさかきみもグルってことはないよな?」
「ち、違うわよ」
 shionは、ぶんぶんと首を振ると、日ワイの連中に言った。
「ちょっとみんな。こんな話、わたし聞いてないよ。ダーリンに銃なんか持たせて、いったい、なにを企んでるの」
「やあねえshionちゃんったら」
 BUTAPENNが、妖しいほほ笑みを浮かべた。
「企んでるなんて人聞きの悪い。わたしたち、なんにも知らないわ。そうよね、みなさん」
 BUTAPENNの問いかけに、とっとと鹿の子は、ニヤリとうなずいた。
「いいでしょう」
 TERUは苦笑しながら言った。
「受けて立ちますよ。で、これからぼくはどうしたらいいんですかね」
「おほほ。じゃあ、ニューヨーク観光は後回しとして、ここで別れましょ。ああ、そうそう。表に中古のセダンが停まってるかもしれないわ。TERUさんは、その車を使うといいかもよ」
「はいはい」
 TERUは、諦めたように肩をすくめた。
「わたしは?」
 と、shion。
「shionさん」
 とっとが答えた。
「TERUさんと苦労したいなら、ここで別れましょう。でも、TERUさんを困らせたいなら、わたしたちと一緒にどうぞ」
「究極の選択ね」
 shionは、そう言って笑ったあと、TERUの腕を抱いた。
「今回は、ダーリンと苦労してみるわ」
「おほほ。それもいいでしょうね。さあ、行くわよ、とっとさんに鹿の子ちゃん。ついていらっしゃい」
「はーい!」
 鹿の子は、優雅に歩いていくBUTAPENNの後を追った。
「じゃあ、ご健闘をお祈りしますよ」
 とっとも、TERUとshionにウィンクしてから、BUTAPENNを追った。
「すっかりドロンジョさまが板に付いてきたようだな」
 TERUは、BUTAPENNの後ろ姿を見ながら苦笑した。
「とっとさんは、すっかりボヤッキーね」
 と、shionも笑った。
 とにもかくにも、こうして長い前フリが終わり、強引に物語は始まったのだった。


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